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Glücklicher Traum 01 ~発見~

なんというか、こんなことをしている場合ではないと気付いていながらやってしまう。
だって楽しいじゃないか!妄想空想大暴走!
さて、明日はその分勉強しよう…
良い夢物語。 きっと俺のことだから悪夢になるだろうけど、よろしければ御付き合いくださいませ。
第一部、幕開けです。 


 


 蒼く透き通った海と、吹き抜ける潮風は近頃にない爽やかさだった。一年を通して曇天に包まれ、海が荒れることも決して珍しくはない。揣摩皇国南西の人工島、ここは「機族」の研究のためだけに造られた、名前もない、地図上にも存在しない島だ。訪れるものは定期的な物資の搬入以外には無いに等しく、通信は回線を通じて行われるものがほとんどの、完全に孤立した島。その島に今日は珍しい快晴が訪れていた。

 研究者として選抜された夫に付き添って、いや、半ば強制的な移住をして、もう五年が経つ。目立った不自由もなく、同じように『国家機密保持』の一環として移住させられた家族も多いので寂しいということもない。贅沢を言うなら、もっと気候の穏やかな観光向けのようなところにしてくれたらよかったのに。と思うが、それでは機密も何もあったものではないし、何より研究に身も入らないだろう。そんなこと思い空を見上げた。荒れそうな気配はどこにも感じられなかった。

 

 

「機族」の研究は国家の発展要素の一つと言っても過言ではなかった。
まさしく超人的な身体能力と、それぞれに付加された特殊能力。自在に空中を浮遊することができる特異な力。そのどれか一つでも解き明かし、人間のものとすることができれば…それは即ち他国との差となる。
技術的にはもちろん、軍事、外交でも大きくリードできるということだ。
それ故に「機族」の研究に携わる者には普通以上の資質と能力、実績が求められる。


揣摩皇国は海を挟んで世界の二大軍事国家、ヴェスカノーチ帝国(瞑国)とライナック帝国(禮国)に挟まれた位置に存在する。それでも侵略行為に屈することなく、対等な外交を持つことができているのは、この国を治める揣摩一族の聡明な政治判断と、揣摩皇国の進んだ科学技術の賜物と言えるだろう。

その進んだ技術の中でも群を抜き、揣摩に選抜された研究者、それが揣摩皇国での「機族」研究者である。この島に入ることを許された研究者はたった五十人。その中の一人でいられることは御厨(みくりや)の誇りであり、夢の『偉大なる研究者の仲間入り』への最短ルートとしてあるはずだった。
しかし、最早それは『夢』ではなくなってしまった。まさしく今目の前にいる男、師と仰ぐこの施設の主任の手によってそれは達せられた。


今はまだ、誰も信じられないかもしれない。しかし決して蔑ろにすることもまた許されないはずだ。宇宙と世界。空間と次元。歴史と現在。過去と未来。それらを一気に我々の側に近づけ、そして同時にまるで振り払うかのように遠ざける。そんな虚と実の狭間に我々を誘うような世紀の大発
見をしたのだ。この男は…いや、私と彼は!


「やりましたね、主任!もしこれが事実なら、揣摩皇国は宇宙開発で世界の覇者になります。いや、それだけじゃない…まだまだ、想像もできないようなことが…!」

もし事実なら。心にもない言葉だった。

我々の研究には一切の間違いはない。絶対の自信はあった。
それなのにこんな言葉が出てくるというのは、自分の中のどこかでこの説を信じたくないという気持ちがあるからなのだろうか?
いや、そうだとしてもおかしくはない。それだけこの発見は偉大で、そして恐ろしいものなのだから。


「はしゃぎすぎですよ、御厨君。君もよくこんな仮説を信じてついてきてくれました。おかげでこの成果を出すことができたのです。ありがとう。」

「いや、そんな感謝をいただけるようなことは何も…」

「しかし、これを発表するにはまだ早すぎる。君も、外部には決して話し手はいけない。これは君と私だけの秘密としよう。揣摩の政治はそんなことはしないと思うが、もしも他国に洩れて軍事転用でもされようものなら…」

「大丈夫ですよ!いくら俺だってこんな大事な研究漏らしやしませんて!まったく、信用ないなぁ~」

「えぇ、用心するに越したことはありませんからね。特に君は、酒と女性には口が軽くて困る。」

「っか~、世紀の大先生があんな細かい話をいまだに根にもつってんですか?あのときはあの娘がしつこくてって何度も何度も…」

「はいはい、わかっていますよ。…おや、レン、来ていたのですか?」

気がつくと、ドアのそばには少年が立っていた。主任の一人息子で、名前は錬君。確か今年で七歳だったはずだ。まったくこの親にしてこの子ありといった具合で、物静かで読書の好きな子だ。よくコーヒーを運んできてくれる気の利く子でもある。主任の様子が気になるようであったし、俺も彼がいると和むということで、特例的に研究室への出入りを許可されていたのだ。

「お~、錬君は今日、お父さんが素晴らしい発見をしたって気がついたのかな~?」

「?発見? 父はまた何か新しいもの見つけたの?」

「そうだよ~、君のお父さんは世界を変えちゃうようなすごい発見をしたんだよ~」

「御厨君、また君は…」

「いいじゃないっすか~。お父さんは堅いよな~。」

「父、すごいな!おめでと!」

「やれやれ…。なんだ、お前まで。」

「洗濯物を干していたら錬がいなくなっちゃってね、今日は忙しいと言っていたから邪魔しちゃいけないと思って…。あ、でも今日は空が奇麗だから見た方がいいんじゃないかな~と思って」

相変わらずのんびりとした空気を漂わせて奥さんまで入ってきていた。

何か発見があると、いつも決まってこんな感じだ。この家族は何かが起きると感じ取っているのか?それともそれが家族なのか…選抜された当時身重だった嫁さんを本島に置いてきた俺にとっては、未だ持ってよくわからないところではあるが・・・


「そうだ錬君!お父さんの大事な研究の入ったこのメモリーキューブ、錬君が預っててくれないかな?御厨のおっちゃん、君のお父さんに使用なくってね・・・」

もう突っ込む気力もないよ、といった風に肩を竦ませ、主任は奥さんを連れて外へとむかった。


爽やかだった風は湿り気を帯び、あんなにきれいだった空には彼方に暗雲が見え始めていた。今夜は荒れそうだった。

 

 

Glücklicher Traum 01 ~発見~ 完

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下地鶏@Aym家

Author:下地鶏@Aym家
日本国と陸続きの異国「北東北」に生息する鶏です。
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